こんにちは。KOMACHIマガジン編集部の長谷川です。
2026年6月3日から5日、ボストンで検索マーケティングのカンファレンスSMX Advancedが開催されました。Search Engine Landが主催する、この分野では世界最大級のイベントです。1ヶ月ほど経って、参加した企業やコンサルタントの報告が英語圏でも国内でも出そろってきたのですが、読み比べるとトーンが揃っています。検索のカンファレンスなのに、いわゆるSEOの話が中心にない。主語がAI Visibility、つまりAIからの見つけられやすさに変わっていた、と。
僕は現地に行っていません。だから今回は、参加報告の伝聞をそのまま運ぶのではなく、登壇者本人が公開しているスライドや記事、それに一次データを当たって、何がどこまで本当なのかを確かめました。派手に言えばSEOの終わりに聞こえる話ですが、公開資料を読み込んだ印象はだいぶ違います。SEOが終わったのではなく、SEOだけを語る場が終わった。基礎は前提になり、その上に積むものの話に移っていた。それが結論です。
💡 KEY MESSAGE
SEOが終わったのではなく、SEOだけを語る場が終わった。基礎SEOは前提になり、主戦場は「意思決定の分岐を面で埋める」「画面上の露出と言及で測る」「AIエージェントに読ませる」へ。登壇者の公開資料で確かめた5つの変化。
変化は5つに整理できます。順に見ていきます。
変化1 主語がSEOからAI Visibilityへ
複数の参加レポートが、今年のSMX Advancedの中心テーマをAIとの向き合い方だったと報告しています。米代理店Level AgencyやArc Intermediaが公開している参加記録を読むと、セッションの多くがAI検索での可視性、計測、エージェント対応に割かれていたことが分かります。
言葉の変化だけなら流行で片づけられますが、お金の動きが伴っています。AI回答の中で自社がどれだけ言及・引用されているかを計測するツールProfoundは、2026年2月24日に9,600万ドルのシリーズC調達と評価額10億ドルを公式発表しました。Fortuneの報道によれば創業からわずか18ヶ月でのユニコーン化で、公式ブログにはTarget、Walmart、Figmaといった顧客名が並んでいます。AhrefsはBrand Radar、SemrushはAI Toolkitという同種の計測機能を製品化済みです。AI回答の中での存在感を測る、という行為がひとつの市場として成立し始めている。カンファレンスの主語の変化は、この市場の立ち上がりと同じ方向を向いています。
ただし、海外の専門家が一枚岩なわけではありません。iPullRankのMike Kingは自社の公開ドキュメントで、単一クエリの順位に向けて最適化してきた25年と、複数クエリを横断する推論システムに向けた関連性設計とは別物だ、という趣旨を書いています。一方で後述するAleyda Solisは、AI時代の勝ち筋の多くを強固な基礎SEOの延長に置く構成で語っています。SEOと呼ぶか、別の名前を付けるか。そこはまだ論争中です。名前の議論より、中身の変化を見た方がいい。以降の4つは、その中身です。

変化2 AIは検索エンジンではなく、意思決定エンジン
参加レポートで繰り返し取り上げられているセッションのひとつが、SEOコンサルタントAleyda Solisの発表です。ありがたいことに本人が当日のスライドをSpeaker Deckで全公開しているので、伝聞ではなくスライドそのものを確認できます。
核になる主張はこうです。AI検索は情報を取ってくる仕組みではなく、意思決定を代行するdecision engineとして働く。ユーザーはAIとの対話で比較し、絞り込み、決めてしまう。だからコンテンツ側は、キーワードのマップではなく、ユーザーの用途と制約を掛け合わせたマトリクスで設計し直すべきだ、と。
スライドには具体例まで載っています。ランニングシューズを売るなら、best running shoes 2026という1本のキーワードを狙うのではなく、マラソン練習用・トレイル用・普段履きという用途と、クッション性・重量・価格という制約の掛け合わせごとに、商品属性・説明・絞り込み・内部リンクを用意する。AIとの対話は分岐しながら進むので、分岐の先のそれぞれに答えが置いてあるサイトが推薦される、という理屈です。
これはECの例ですが、BtoBの記事にそのまま翻訳できます。おすすめツール10選を1本書いて終わりにするのではなく、読者の意思決定が分岐する点、たとえば業種、予算、既存ツールとの相性、社内の運用体制ごとに、答えを網羅しておく。1キーワード1記事という発想から、意思決定の分岐図を面で埋める発想へ。KOMACHIマガジンも他人事ではなく、既存記事がこの分岐をどれだけ拾えているか、棚卸しが必要だと考えています。

変化3 順位からピクセルへ。1位でも見えない検索結果
MozとSTATのTom Capperは、検索結果をピクセル単位で測った調査を発表しました。数字はSearch Engine Journalが記録した発表内容から引きます。
デスクトップでは、オーガニック検索1位の表示位置の中央値はページ上端から約635ピクセル。一般的なノートPCの表示領域は縦800ピクセル程度なので、ぎりぎり入るかどうかです。1位がスクロールなしで見える割合はデスクトップで57%、スマートフォンでは約40%しかありません。Capperは発表で、典型的なスマートフォンでは6割方、1位のオーガニック結果は最初の1行すら見えていない、と述べています。上を占領しているのは、情報系のクエリならAI Overviews(ファーストビューの約31%、ナレッジグラフと併用時は約41%)、商用クエリなら広告とショッピング枠(60%超)です。
順位という指標がここまで目減りしているなら、見るべきものも変わります。1位か3位かより、ユーザーの画面のどこに、どんな形で露出しているか。クリックが来なくても画面に映っていたか。Capperの発表には、順位の予測因子としてブランドがどんどん強くなっている、という指摘もありました。順位を追う仕事が、露出と想起を設計する仕事に近づいている。変化1のAI Visibilityという言葉は、この文脈でも効いてきます。

変化4 成果が測れない問題と、計測点をずらすという答え
AI検索対策の話が実務で止まるのは、たいていここです。やったとして、効果をどう証明するのか。
構造的な問題であることは、Semrushが2026年5月の公式ブログでattribution gapとして整理しています。AIの回答の中で自社を知った人は、その場でリンクを踏むとは限りません。後日ブランド名で検索したり、URLを直接叩いたりする。するとアナリティクス上は指名検索やダイレクト流入に分類され、起点がAIだったことはどこにも残らない。影響と記録の間に、埋まらない溝があるわけです。
一方で、測れるものは増えています。Googleは2026年5月13日、GA4にAI Assistantsという新しいチャネルを公式追加しました。ChatGPTやGemini、Copilotなどからの流入が自動で束ねられます。ただし公式ドキュメントを読むと穴も明確で、Perplexityは対象リストに入っておらず、GoogleのAI OverviewsとAIモードからのクリックは除外されてOrganic Searchに混ざり、referrer(参照元情報)が消えた訪問はダイレクトに落ちます。このチャネルの数字だけ見てAIの影響を判断すると、確実に過少評価になります。
参考になる数字をひとつ。Ahrefsが自社サイトで公開しているデータでは、AI検索経由の訪問は全体のわずか0.5%なのに、サインアップの12.1%を占めていました。referrerが残った訪問だけを数えてこれなので、実際の影響はもっと大きい可能性があります。ただしこれは1社の、しかもSEOツールという特殊な商材の数字です。一般化はできませんが、流入の量だけでAI経由を切り捨てるのは早い、という程度のことは言えます。
では何で測るか。ヒントは、Google自身が広告の世界でとっくにやっています。Search Liftという公式プロダクトは、広告に接触した人の指名検索がどれだけ増えたかを効果指標にします。最後のクリックが取れないなら、途中の指標で測る。AI検索も同じ構えでよくて、AI回答の中での言及や引用の量、指名検索の推移、AI経由流入の質。この3つを並べる計器がいまの現実解だと考えています。言及率・引用率を測るのが変化1で触れた計測ツール群で、実はKOMACHIでも同じ思想のGEO機能を開発中です。手前味噌はこの1文でやめておきます。
なお、Googleの中のAIと外部のAIチャットでは引用のされ方がそもそも別物です。ここは先日の記事「Google上位=AI引用」は崩れたのか。話題の70%→20%の出所を追ったで一次データごと整理したので、併せてどうぞ。
変化5 エージェントが買い物をする時代の、商品ページ
最後はECの話ですが、BtoBにも刺さります。ShopifyのシニアSEOリードKyle Risleyが、AIエージェントが人の代わりに買い物をするagentic commerceへの対応を語りました。参加レポートによれば、AIエージェントがサイトにアクセスできるか、内容を理解できるか、情報を信頼できるか、という3つの観点で整理されたセッションだったようです。
このラベル自体は講演の伝聞ですが、中身は本人と会社の公開資料で確認できます。Risley本人が2026年2月にShopify公式ブログへ書いたAEO解説には、商品ページはAIモデルが読んで理解できる構造でなければならない、AIシステムは事実を好み、事実で組まれたページは引用されるために組まれたページだ、とあります。Shopify公式のagentic commerce解説も直球で、AIエージェントは人間のようにお店を眺めない、構造化されたデータに依存する、と書いています。実装も進んでいて、ShopifyはGoogleと共同開発したUniversal Commerce Protocolや、全マーチャントの商品を横断検索できるGlobal Catalogを開発者向けに公開済みです。
商品を売っていなくても、構図は同じです。料金ページ、機能一覧、導入条件。AIが読んで即答できる密度で事実が書かれているか。人間向けの雰囲気の良いページと、機械が引用できるページは、要件が違います。そして変化2のニーズ分岐網羅とここは地続きです。分岐の先に置く答えは、事実の密度が高いほど働く。
月曜からやること、3つに絞る
5つの変化を全部追うと手が止まるので、KOMACHIマガジンの読者、つまりオウンドメディアやマーケを担当している人の実務に絞って3つにします。
- 既存記事を意思決定の分岐で棚卸しする。 主要テーマについて、読者が決めるまでに分岐する点(業種・予算・既存環境・体制)を書き出し、既存記事がどの分岐に答えているかを表にする。空いている分岐が、次に書くべき記事です。
- GA4のAI Assistantsチャネルを見る。ただし穴を知った上で。 流入は小さく出ます。Perplexity非対応・AI Overviews除外・referrer欠落という3つの穴があるからです。だから単体で判断せず、Search Consoleでの指名検索クエリの推移とセットで眺める。この2つが両方伸びていれば、AI経由の認知が効いている可能性を疑えます。
- 第三者に言及される場所への露出を、計画に1行足す。 業界メディアへの寄稿、レビューサイト、事例記事。AI回答での言及は自社サイトの順位だけでは決まらないことが、複数の調査で示されています。SEOの外側にある動きを、月次の計画に最低1つ入れる。

まとめ
カンファレンスからSEOの話が消えたのは、SEOが不要になったからではなく、議論の前提になったからです。Aleyda Solisのスライドも、勝ち筋の土台には基礎的なサイト設計と内部リンクを置いています。変わったのは、その上に積むもの。キーワードの順位から、意思決定分岐の網羅へ。順位の確認から、画面上の露出と言及の計測へ。人間の読者だけでなく、判断を代行するAIエージェントへ。
派手な参加報告の言葉より、登壇者の公開スライドの中身の方がずっと実務的でした。現地に行けなくても、一次資料は追える。土台のSEOは削らず、積むものを入れ替える準備を。
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